2019年2月号

『人を応援すること①

 

 

栗城史多(くりきのぶかず)氏、昨年(2018年5月21日)にエベレスト登頂に挑戦したものの途中で滑落死した人です。彼は2010年頃『冒険の共有』をテーマとしエベレストなどに登山する様子をインターネットで生中継する登山家として、各マスコミでも取り上げられるようになりました。エベレスト登頂はなかなか果たせず、2012年の4度目の挑戦では重度の凍傷により指9本を切断するという事態にも直面しました。

 

この頃からでしょうか、栗城氏を“下山家”などと揶揄する言葉がネット上に多く見られるようになりました。もともと登頂する気などなくスポンサーからお金を集めるためのポーズを続けているにすぎないといったパッシングが目立つようになりました。その後応援・擁護する人とアンチとの論争が続きます。 

 

僕は、彼と直接会ったことがあるんです。2013年に我孫子市で行われた講演に行きました。講演終了後には、包帯だらけの手(凍傷の治療中)で握手をしてもらいました。講演の様子を見る限りでは、20代の若者が夢を必死に語り続けている、でもちょっと無理してるかな?とも思えました。

 

それから5年経った2018年、凍傷の傷を背負ったままエベレスト登頂に挑戦し、エベレストで命を落としました。滑落による事故死と報道されましたが、僕の印象としては自殺に近いものだと思っています。今年の正月NHKでなぜ栗城氏はエベレストで命を落とすことになったのか(事故なのか自殺なのか)に焦点をあてた特番が放映されていました。

 

自殺に近いと思える要因の一つに彼が選んだ登山ルート(南西壁ルート)があります。人類の中で南西壁ルートでの登頂を成功させたのはこれまで1グループのみ。

 

単独で登頂を果たした人はいません。このルートでの登頂を目指した人物を描いた小説『神々の山嶺』ではエベレスト南西壁を

 

宇宙に向かって、背を持ちあげかけた巨獣のように、その岩稜が見えている”と描写しています。

 

栗城氏がなぜこのルートを選択したのか。もっと楽に登頂を果たせるルートで登頂を目指せばいいのに、多くの人が思ったはずです。でもそうしなかった。ここからは勝手な僕の憶測です。ほぼ成しえる可能性の無いルートを選択した背景には、彼の性格と同時にアンチではなく応援や擁護する側周囲の声の影響が大きかったのではないかと。応援や擁護する側の声が、なぜ彼に難しい(自殺に近い)選択をさせてしまったのか。このことは、決して遠くかけ離れたものではなく結構身近に起こることでもあるんです。次回、例を交えながら紹介します。

                                奥松

 


  ☆カッコよく生きる☆

 みなさん、画狂老人卍(まんじ)という画家はご存知でしょうか?え?知らない?では、春郎は?宗理は?戴斗は?じゃあ、北斎と言う名前なら、聞き覚えがあるでしょう。そう、あの葛飾北斎です。富士山と荒波の版画で有名ですね。実は、先述の4名は、全て北斎のペンネームです。彼は生涯で30回以上名前を変えたのだとか。先日、北斎の肉筆画の特集番組を見た時の衝撃が凄まじかったので、ご紹介いたします。

 

 

北斎は、6歳で筆を握り始め、90歳で亡くなるまで絵に人生の全てを捧げた、まさに「画に狂ったおじいさん」なのです。まず一つ目の衝撃は、富嶽三十六景が大ヒットした時の彼の年齢は70歳を越えていたということです。普通ならば、もう死期を迎えている頃です。二つ目の衝撃は、自分の描いた線を正確に彫る、彫り士がいないという理由で、ヒットからわずか3年で版画の世界をはなれ、以降、肉筆画(実際に自分の筆で描いた絵そのもの)に専念したことです。その彼が88歳の時に描いた「雷神図」が半端なくカッコイイ。そして、最大の衝撃は、宗理と名乗っていた30代の頃の肉筆画。同一人物が描いたとは到底思えないほど・・・、へたです!へたとは言い過ぎかもしれませんが、至って普通です。でも、「普通」では芸術の世界では通じません。

 

 

 このように、名前を塗り変えると共に、生まれ変わったように絵のスタイルも進化変革してゆく。大人になると、つい安定や普通を求めがちですが、今からでも遅くはない、何歳になろうが進歩できる、と、北斎が訴えかけているようでした。人生で30回も荒波のように「変化」することまでは、難しいかもしれませんが、死ぬまで高みを目指して、諦めないような、カッコイイおじいさんにはなりたいものです。

                                 

                               インストラクター 伊勢 豊

 


☆今月の作品紹介☆

シンゴジラの1シーン・鬼たち・巨大な生き物・おみくじマシーン

 

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