2024年2月号

☆グループ教室 学習塾“稲進会”の内容も含まれます。

『道草のすすめ

ノーベル賞作家アナトール・フランスの随想録である『エピクロスの園』にこんな話があります。


グレピネ先生が、教室で、「人と精(精霊)」という寓話をわたくしたちに読んで聞かせられた時、わたくしはまだ十歳にもなっていなかった。とはいえわたくしは、あの寓話を昨日聞いたよりもはっきりと思い出す。ある精が一人の子供に一つの糸毯(いとだま)を与えていう。

 

「この糸はお前の一生の日々の糸だ。 これを取るがよい。 時間がお前のために流れてほしいと思う時には、糸を引っぱるのだ。糸毯を早く繰(く)るか永くかかって繰るかによって、お前の一生の日々は急速にも緩慢にも過ぎてゆくだろう。糸に手を触れない限りは、お前は生涯の同じ時刻にとどまっているだろう。」

子供はその糸を取った。

 

 

そしてまず、大人になるために、それから愛する婚約者と結婚するために、それから子供たちが大きくなるのを見たり、職や利得や名誉を手に入れたり、心配事から早く解放されたり、悲しみや、年齢とともにやって来た病気を避けたりするために、そして最後に、かなしいかな、厄介な老年に止めを刺すために、糸を引っぱった。その結果は、子供は精の訪れを受けて以来、四か月と六日しか生きていなかったという。


 

コロナ禍の期間休止していたランニングを復活してから一年が経過しました。以前は“タイム至上主義”で、走る目的はベストタイムの更新!走っている最中に考えることは、とにかく無駄なエネルギーを使わないこと。視線は、やや先の道路に向け動かすことなく、1キロ毎に腕時計が知らせてくれるタイムを確認しながら、黙々と走り続けるだけ。長い距離を走るときは、主に手賀沼周辺で行っていたのですが、それはただ信号が無く安全に走れるからという理由のみ。ご承知の方も多いかと思いますが、手賀沼周辺は四季折々の自然を楽しむには最適な場所なんです。季節ごとの花が咲き、たくさんの野鳥や時にはヘビも目にすることができます。以前のランニングの仕方では、こうしたものに目を向けることはありませんでした。再開後は、せっかく手賀沼周辺を走るなら景観も楽しんじゃおう!と周囲に目を向けながら走っています。春は桜、夏はハス(以前よりかなり減少してしまっているようです)、秋は曼珠沙華(真っ赤でとてもきれい)その他たくさんの自然を満喫できます。先日は、菜の花がたくさん咲いていました。

 

ランニングは大抵の時間苦しく、『エピクロスの園』の話に出てくる“糸毯(いとだま)”が存在するなら早く繰(く)ってしまいたくなる時がほとんどです。でも、ちょっと視線を他に向けることで、日常目にすることのないたくさんの風景を楽しめるようにもなります。

 

 

時に道草も人生を豊かにしてくれるようです。(奥松)


まなびの広場 HPへ↑(クリック)