2023年11月号

☆グループ教室 学習塾“稲進会”の内容も含まれます。

『いろんなペースで

江戸時代後期に書かれた『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)では、人生に嫌気がさした弥次郎兵衛と喜多八という二人が厄払いをしに伊勢参りを行うために東海道を旅する様子が描かれています。この本は、正・続編を含め全43巻まで続いたベストセラー作品となりました。十返舎一九は、途中ネタが切れ「もう続きは書きたくないが、本屋が許してくれない」とグチをこぼすほど本屋(出版社)からの圧力があったそうです(それだけ売れたということ)。この本の面白さは、道中で出会う人々とのやりとりや、各地で二人が起こす騒動などにあります。ときに、ちびっ子たちにはまだ目にしてはいけないような場面もあったりなかったり……。もしこの二人が新幹線を利用したとしたら……、本に描かれた出来事は一つも起こらなかったことでしょう。二人がゆっくり道中を歩いて進んだからこそ、たくさんの読者を惹きつける面白おかしい人情味あふれる出来事が起きたわけです。

 

交通機関の発達により、一つの目的地に到達する方法は多様になりました。半日もあれば日本国内大抵の場所への移動が可能です。スピードを求めるのであれば飛行機や新幹線、プライベートな空間を楽しみながら移動したいのなら自動車、陸続きの場所なら“弥次さん喜多さん”のように徒歩でもいつかはたどり着くことが出来ます。どの手段で移動するのが良いのか?その人の目的や考え方に応じ一番適した方法を選べば良いのだと思います。出来るだけ早く目的地に到着しそこでの時間を充実させるのも良し、ゆっくり目的地へ向かう過程を楽しむのも良しということです。

 

そしてこれは人生の歩み方にも通じることだとも思うんです。大人は子供たちに将来進む道を早めに決め、そこに最短ルートでたどり着く方法を薦めがちです。ですが、201512月には「AIの導入によって日本の労働人口の49%の仕事が1020年以内になくなる」というレポートが野村総研とオックスフォード大学の共同研究により発表されました。これが現実になるとするならば、現在の子供たちが思い描く将来の姿は、この世に存在していない可能性が高いとも言えるのです。もちろん目標がはっきりしていて、それに向けひた走ることは素晴らしいことです。ただ、未来のことを考えるでもなく、今この瞬間をゆっくり味わいながら進んでいく、そんな生き方も同じように素晴らしいことなんだと思います。(奥松)


“老人が君に言いました 『残りの人生を買わせてよ 50年を50億で買おう』 人生をやり直したいと

ただ起きて食って働いて 寝て起きて働く毎日だ

それなのに手放したくない理由を考えてみたよ

身体も痛くなるだろうし 友達もいなくなるんだろうな 恋愛もできなくなるよな その値段じゃ売れないな

僕が生きているこの時間は50億以上の価値があるでしょう 

生きているだけでまるもうけ これ以上何が欲しいというの” 『ビリミリオン』(作詞作曲 優里)


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